6.2.4 摩擦

上層では地衡風近似が成立するが,地上では摩擦の影響で風は等圧線と交わっている。

摩擦があると,風が等圧線を横切るのは

      気圧傾度力は直線運動でも曲線運動でも,方向も大きさも摩擦には関係しない。

      摩擦力は風速に比例し,風向と反対方向に働き,摩擦がない場合に比べて風速が小さくなる。

      そうするとコリオリ力2ΩVSinφは小さくなり,気圧傾度力と釣り合いが出来なくなる。

      相対的に大きくなった気圧傾度力の方向,高圧部から低圧部の方へ風向が変わる。

     そして,風向と反対方向の摩擦力とコリオリ力の合力と気圧傾度力が均衡する。からである。

   摩擦とは何か

   摩擦は地表面で最大で,上空に向かって次第に弱まる。図6.33に示すように,大気下層の摩擦の影響があ

る部分を大気境界層,その上の摩擦を無視できるところを自由大気と呼ぶ。この境はおよそ1000m程度であ

る。天気図解析で850hPaでは前線の解析を主にするが,これは地表面の摩擦などの細かな影響がなくなり,

本質的な姿が見えるためである。

 

 

図6.33 大気境界層とエクマンスパイラル

 

大気境界層(摩擦層)はその性質から2つに分けて考える。大気は地球固体の地表面に接し,熱,水蒸気,運動量など

の物理量をやり取りしている。ここを接地層といい,高さは約100mくらいである。その上は大気同士の摩擦があると

ころでエクマン層(転移層)という。

大気境界層の中では大気の乱れが大きく,大小多数の乱渦が発生と消滅を繰り返している。乱渦は地物や地表面の凸凹

のためにそこを通過する流れを乱したり,また日中に陸上で地面が日射加熱され,下から暖められ不安定になった大気が

乱れた対流を起こすことなどにより発生する。そのため境界層内の大気の乱れは,海洋上よりも陸上が,夜間よりも日中

の方が大きくなっている。

 

多数の乱渦は風に流されながら不規則に運動し,互いに衝突し合って熱や運動量を交換しながら境界層内を上下にかき

混ぜている。

大気境界層の地表に接する最下層の高さ数十mくらいの部分は接地層と呼ばれ,地表面の影響をもっとも強く受けている。

大気の力学における地上摩擦は風向の反対方向に働き,速度に比例する大きさを持つと考える。摩擦力の最も単純な考え

風速の強い層と弱い層との間(鉛直シアー)で,うずによって運動量の交換(鉛直輸送)が行われるというもの

である。これが摩擦力の基本の考えである。数式による表現は本書の範囲を超えるので,省略するが考え方を理解するように。

 

境界層で図6.34のような風の鉛直分布を考える。一般的に上層ほど風は強く,運動量も大きい。うずによって下降する空

気塊は大きな運動量を下向きに運び,上昇する空気塊は小さな運動量を上向きに運ぶ。

全体として見ると,運動量の下向き輸送が行われる。また,輸送量は鉛直シアーに比例する。下向きに輸送された運動量は

溜まる一方ではなく,地表とのやり取り(地表に運動量を与える)に使われる。

 

 

  図6.34 風の鉛直シアーとうずの運動量輸送

 

図6.35 北半球南北鉛直断面図:西経80度に沿う1月の平均気温と風速。破線は等温線(℃),実線は等風速線

(東西成分:m/s),一点破線は対流圏界面 (Kochanski,1955:小倉義光「一般気象学」から)