6.2.3     傾度風・旋衡風

1傾度風

発達した温帯低気圧や台風の場合,風は比較的曲率半径の小さいカーブを描き,円運動と近似する必要

がある。また,風速も大きいために空気塊に働く遠心力が強くなり,地衡風の近似は成立しない(遠心力

は(6.18)式,(6.19)式を参照)。

  図6.32 傾度風

 

自由大気を仮定し,摩擦力は無視できるとする。このときの運動方程式は単位質量を考えると,

気圧傾度力+コリオリ力+遠心力=加速度      (6.39)

となる。この3つの力が釣り合っているとしたときの風を傾度風という。当然だが地衡風と同じく加速度

は0で,定常状態である。

 

6.32のように低気圧と高気圧では働く力の向きが違う。。

接線速度Vは低気圧(反時計回り)を+,高気圧(時計回り)を−とする。空気塊の回転半径をrとす

ると

 

空気塊に働く遠心力:V/r 低気圧,高気圧共に外向きに働く。

気圧傾度力    :G    低気圧では内向き

高気圧では外向きに働く。

コリオリ力    :fV,f コリオリパラメータ。

低気圧では外向き

高気圧では内向きに働く。

力の半径(動径)方向の符号は内向きを+,外向きを−とする。

 

力の釣り合いの式(運動方程式で加速度0)は次式になる。

     傾度風の式

/r+fV=G            (6.40)

 これから傾度風速Vを求めると,

       (6.41)

となる。

6.41)式で実際の風が実現するにはVは実数でなければならないから,右辺の√の中は+(>0)であ

る必要がある。つまり,

     f+4rG>0 

       fr+4G>0

(fr)/4>−G                (6.42)

の関係が成り立つ必要がある。

 (6.41)式と(6.42)式の参考までに。

 aX+bX+c=0 を解くと,X=

(6.40)を V2+frV−rG=0 と変形し,

X=V,a=1,b=fr,c=−r と考えてVを求める。

 

実数について

 のように√の中が−のときは√の中に−1が残り,開くことが

出来ない。実際の数(実数)にならず,実在しない数になってしまう。実在する数であるためには√の中

は+の必要がある。

 

低気圧の場合はG>0だから(6.42)式の右辺は−である。

      (fr)/4>0>−G

中心付近でrが小さくても(fr)は+で,常に上式を満足する。高気圧のような制限はなく,そのため

低気圧の中心では台風のような大きな気圧傾度が存在できることになる。

 

 温帯低気圧や高気圧について傾度風を求めると,低気圧では風速は地衡風に比べやや小さく,高気圧で

はやや大きくなるが,いずれも地衡風との差は小さい。しかし,発達した温帯低気圧や熱帯低気圧・台風

の場合は円運動に近く、また気圧傾度力が大きいために,遠心力を無視して地衡風として計算すると非現

実的な風速になってしまう。

 

[問題]台風が北緯30°Nにあり,台風中心から50kmのところで気圧傾度は100kmにつき50hPaであ

る。

空気の密度を1.25kg,空気の密度を1.25kg/m

Sin30°=0.5,=89.5 として,

   @地衡風 , A傾度風

   を求めなさい。

 

   答 @ 548m/s

       (6.26)式に数値を入れて計算するだけだが,単位を入れて計算しなさい。

     A 42.9m/s  

(6.41)式で計算する。計算では42.9m/s と-51.4m/sの2つが算出される。42.9m/sが正

しい答。

-51.4m/sは北半球で低気圧の風が時計回りに吹く異常な傾度風である。

   台風や非常に発達した温帯低気圧の中心付近では,地衡風と傾度風の大きさは大きく違う。