(3)等圧面高度の地衡風
等圧面上で気体の状態方程式を考える。
P=ρRT
例えば,850hPaの等圧面ではどの地点でも P=850×100Paで,一定値である。気体定数Rも一定値である。
したがって,
ρT=P/R=一定である。
等高度面の地衡風の式は
u=−
, v=
で,凾o/凾氏C凾o/凾,凾o/凾凾ヘそれぞれの風の方向,東西方向(x軸),南北方向(y軸)の単位距離
あたりの気圧差=気圧傾度である。
高層天気図では等圧線ではなく,それぞれの気圧面の等高度線が描かれている。地衡風を計算するには,上の式の
等高度面上の凾oの代わりに等圧面上の凾嘯使う必要がある。この気圧差と高度差の2つを結びつける関係に静力
学(静水圧)平衡の式がある。
静力学(静水圧)平衡の式 凾o=−ρg凾噤@ (6.35)
この式から凾oを凾にそのまま変換したいところだが,残念ながら一工夫が必要である。図6.30の左図で,凾
は図6.26のAD,BCに相当し,nの向きは高圧部から低圧部へ向かう。北半球において,ある等圧面の高度がn
方向に凾獅フ距離で凾嘯セけ下がっているとすれば,nの方向への勾配(気圧傾度)は−(凾噤^凾氏jになる(な
ぜか,高度傾度とか高度傾度力とはいわない)。
図6.30 等圧面の傾斜
高度差(−凾噤jに対応する気圧差は,重力加速度をg,その間の大気の密度をρとすれば,静力学平衡の式から
凾o=ρg凾噤@: 符号が変わることに注意。
になる。この凾oを等高度面の地衡風の式(6.26)に代入すると
等圧面での地衡風式
(6.36)
が得られる。
図6.30の右は,等圧面の高度がy方向(北へ向かって)下がっている場合である。等圧面の高度が北への距離
凾凾ナ凾嚔コがり,その勾配(傾度)は−(凾噤^凾凵jになる。前と同じ考えで変換すると,
この等圧面上の地衡風の東西成分(x成分)は
(6.37)
となる。また同じ考え方で,等圧面の高度がx方向(東へ向かって)下がっている場合から,
この等圧面上の地衡風の南北成分(y成分)は
(6.38)
風速:
になる。
風向は
u/v=Tanθ を満たすθから求められる。
等圧面の高度がy方向(北へ向かって)下がっている場合。
・
凾凾ノ対する凾嘯フ符号は(−)なので(6.37)式からuは(+)
・
x軸の正方向になる。
・
つまり低圧側(等圧面高度の下がる北側)を左に見るような等高度線と平行な西風(図では紙面の表から裏側に
向かう方向)になる。
等圧面高度が北側で高くなっている場合
・
凾嘯フ符号は(+)なので低圧側を左に見るような東風になる。
等圧面が東西に傾斜している場合の(6.38)式による地衡風南北成分についても,北半球では東西成分と同じに低
圧側を左に見る方向に流れる。
例えば等圧面高度が東側に比べ西側で低くなっている場合は,南から北に向かう南風になる。
また南半球ではコリオリ力の作用する向きが北半球とは逆になり,地衡風の風向も北半球とは反対になる。
ここで注意するのは,
・
地衡風を導き出すのに中緯度帯の温帯低気圧規模の擾乱を前提に,運動方程式F=mαの右辺の加速度の項が無
視できるとした。
・
厳密な地衡風は等圧線あるいは等高度線が平行直線の場合にのみ実現される。
・
温帯低気圧などはスケールが大きく等圧線や等高度線が部分的には直線に近いので,自由大気中では風はかなり
良い近似で地衡風と見なせる。
ことである。
中緯度の温帯低気圧などでは地衡風は良い近似で成り立つが,赤道に近い低緯度地方では地衡風近似は成り立たな
くなる。コリオリパラメータf=2ΩSinφは赤道に近いほど小さくなり,赤道(緯度φ=0:Sinφ=0)ではf=
0である。地衡風を導くときに無視できるとした加速度が,コリオリ力が小さくなるために無視できなくなるからで
ある。
R=(加速度)/(コリオリ力)でR≦0.1の桁のとき,気圧傾度力はコリオリ力以外に釣り合
う相手がほとんど無く,地衡風近似が成り立つ。赤道に近い低緯度地方ではコリオリパラメータが
小さくなり過ぎて R≦0.1にならず地衡風近似は成り立たない。