6.2 空気の運動

 大気中の現象には図6.21にあるように,いろいろなスケールのものがある。夏の夕立雲,時には雷も

発生する積乱雲,天気予報でお馴染みの低気圧(温帯低気圧,台風は熱帯低気圧)などなど。

これらの現象は対流圏で起きていて鉛直方向のスケールは10〜20km程度だが,水平スケールは10km〜数

1000kmまでと様々である。これから取り扱うのは温帯低気圧程度の大規模スケール(水平スケールが数

1000km)についてで,大規模現象は水平スケールが鉛直スケールより圧倒的に大きく,近似的に鉛直方

向の運動は無視できることを前提とする。ちなみに,温帯低気圧の平均的な水平方向の風は10m/sのオ

ーダー,上昇流は数cm/sである。

 

議論対象の現象のスケール,条件は非常に重要である。これを忘れるとトンでもないことになる。6.1

節でも「(正味の)力が働かない」という条件が出てきた。風が吹くということは空気に力が働いている

わけだが,空気に働く力はコリオリ力,気圧傾度力,摩擦力,重力がある。そして,現象のスケールに

よってどんな力が重要なのかが違ってくる。この節では主に水平面(方向)の運動について述べるが,

最初に鉛直方向について取り扱う。

 

図6.21 気象の水平・時間スケール

 

6.2.1 静力学(静水圧)平衡

 ここでは大気中の空気塊の鉛直運動を考える。

 空気塊に働く鉛直方向の力は,下向きの重力と上向きの気圧傾度力の2つと考え,2つの力が釣り合

っている(正味の力は0)ときを静力学平衡という。

地球上のすべての物体には重力が作用しており,重力は地球の万有引力と自転の遠心力の合力である。

大気は重力により地球に引きつけられているため下層の大気はその上の大気の重さを受け,下ほど圧

縮され密度が大きく気圧も高くなる。ある高度の気圧はそこから大気上端までの空気の重力といえる。

図6.22 静力学平衡

 

 図6.22のように大気中に表面積凾r,高さ凾yの空気塊を考え,密度をρとする。

空気塊に働く重力は

(空気塊の質量:M)×(重力加速度g=9.8ms−2

重力=Mg=(ρV)g=ρ・凾r・凾y・g   *質量=密度×体積

で,鉛直方向下向きに働く。

 次に気圧による鉛直方向の力(気圧傾度力)を考える。

     高さZの気圧をP, 高さZ+凾yで気圧がP+凾o。

     気圧は大気下層の方が上層より大きく,気圧Pは単位面積当たりで表わす。

     空気塊の下面にはP凾rが上向きに,上面には(P+凾o)凾rが下向きに働く。

  静力学平衡を考えているから,

     重力と上・下面の気圧による力の合計は0。

     力の働く方向は上向きが+,下向きが−である。

したがって,

   −(P+凾o)凾r+P凾r−(ρ・凾r・凾y・g)=0

   −凾o−ρ・凾y・g=0

   −(1/ρ)凾o/凾y=g :気圧傾度力=重力

または         凾o=−ρg凾y      (6.14)

となり,これを静力学平衡の式という。

 

ここで,単位を見てみる。

     気圧PはPa(パスカル)=N・m−2=k・m−1・s−2

     密度ρはk・m−3,重力加速度はm・s−2,高度Zはm

     ρg凾yの単位は[k・m−3][m・s−2][m]

=k・m−1・s−2

     6.14)式の左辺と右辺の単位は一致する。

[問題] 静力学平衡から、密度ρ=1.2k/m(1000hPa,10℃)、1hPa=100Paとして次の問題を

解きなさい。

 

@高度差Zが10mのときの気圧差。

A気圧差Pが−1hPaのときの高度差。

密度ρ=0.7k/m(500hPa,−20℃)のとき,

B高度差Zが10mのときの気圧差。

C気圧差Pが−1hPaのときの高度差。

 

答え @1.2hPa  A8.5m  B0.7hPa  C14.6m 

 

[問題] 地表の気圧が1000hPa,空気の密度を0.98kg/mとして,気圧が850hPaになる高度を求めなさ

い。

     答 1560m