円運動においてもうひとつ重要な概念がある。運動量の円運動版みたいなもので角運動量というもの
である。図6.18のように,フィギアスケートで回転をするときに手を伸ばすと回転が遅くなり,手を縮
めると早く回転する。回転は回転軸(立っている体の中心線)と手先との距離に関係することを示して
いる。また,おもりを紐に結んで手で回し,そして指を立てて紐を絡みつかせると,紐が短くなるにし
たがっておもりは早く回転する。
質量mの物体が回転軸から距離r(円の半径)にあり角速度ωで回転し,運動方向には力は働いていな
いとする。
この時,速度はV=rωで,角運動量は
角運動量=mrV (6.10)
と定義され,保存される。運動の第1法則(運動量保存則)の回転運動への拡張版である。
質量mの物体が初めに半径R1,角速度ω1,速度V1の円運動をしていたが,
次に半径R2,角速度ω2,速度V2になったとする。
角運動量は保存されるので
mR1V1=mR2V2
R1V1=R2V2 :質量は変わらない。
となる。
今は運動を地球上で考えているが,地球は回転している。つまり,運動の基準は地球である。地球の
外(絶対空間,慣性座標)からみたときは地球の自転の効果を加味しなければならない。角速度Ωで回
転している地球上の空気の運動を考えるわけである。角運動量とその保存則は,台風中心付近の強風や
亜熱帯ジェットストリームの理解に役立つ。
2つの事例で角運動量とその保存を考える。
この水平面上の点Pで質量mの物体が半径rの回転運動をしているとする。
・ 緯度φの地点Pにおける地球自転角速度Ωの鉛直方向の成分は
ΩSinφ
・ 地球自転による接線速度は
rΩSinφ(速度=半径×角速度)
・ 角運動量は
mr・rΩSinφ=mr2ΩSinφ
・ 地点Pの鉛直方向に垂直な面で半径r,速度V(地球上で観測した速度)の円運動の角運動量は
mrV
この2つの角運動量を加えたものを絶対角運動量といい,空気塊に何の力も働かないときには,
空気が移動しても絶対角運動量は一定の値で保存される。絶対空間(慣性系)において,
絶対角運動量=mr2ΩSinφ+mrV=一定
単位質量(m=1)の空気塊については
絶対角運動量=r2ΩSinφ+rV=一定 (6.11)
[問題]熱帯低気圧の風
熱帯低気圧が北緯10度にある。Ω=7.3×10−5S−1 ,
Sin10°=0.174とする。絶対角運動量の保存則から
@ 中心から400kmのところで接線速度2m/sで回転していた空気塊が,中心から40kmのところ
にきた時の接線速度を求めなさい。
A熱帯低気圧が赤道上にあるときはどうなるか。@と同様に接線速度を求めなさい。
答 @70.3m/s A20m/s
[400kmの(6.11)式]=[40kmの(6.11)式]
* 単位を入れて計算せよ。
次に図6.20のように,地球の緯度線に沿う流れを考える。この流れは風の東西成分uのことで,帯状
風(zonal wind)という。
今,緯度φで地面に対して東西速度uで動いている単位質量(m=1)の空気塊(図のP)を考える。
・ 地球の自転方向に合わせて西から東に向かう西風をu>0とする。
・ Pは緯度φで地球を横切りした面にあり,その面と地軸の交点を中心とした半径Rの円運動をしてい
る。
・ uは地球に対する速度で,その地球は速度V=RΩ=rCosφ・Ωで動いている
・ したがって,絶対空間に対する空気塊の速度はその2つを合算したもの(u+rCosφ・Ω)になる。
絶対空間で空気塊が持つ絶対角運動量は
rCosφ(u+rCosφ・Ω) (6.12)
空気塊に力が働かなければ絶対角運動量は保存される。緯度φ1で風の東西成分がu1のとき,その空
気塊が緯度φ2に移動して風の東西成分がu2になったときは,
rCosφ1(u1+rCosφ1・Ω)=rCosφ2(u2+rCosφ2・Ω)
(6.13)
[問題]地球の半径r=6.37×106m,地球自転角速度Ω=7.29×10−5s−1,
Cos30°=0.866として次のものを求めなさい。
@赤道における地球の自転による速度。
A赤道上で風の東西成分u=0の空気塊が北緯30°に北上した時の風速
答 @ 464m/s :rCosφΩで,Cosφ=Cos0°=1.0
A 134.2m/s :(6.13) 式で左辺に赤道の値,右辺に30°Nの値を入れ,u2を求める。