7 対流不安定

 これまでは大気が静力学的平衡にあり、その一部の空気塊が上昇する場合を考えてきました。実

際の現象でいえば夏の入道雲などです。しかし、低気圧、前線や山脈などの地形上昇を考えるとき

は、ある厚さと範囲を持つ空気層全体が上昇することを考える必要があります。この空気層が上昇

すると、空気層の安定度がどう変化するかを考えるのが対流不安定です。言葉からはこれまでの空

気塊を持ち上げたときのことと間違い易いので注意してください。

 

 図3.32の状態曲線のP1P2で挟まれた気層が上昇するときを考えます。P1は未飽和ですが混

合比が高く(T−Tが小さい、相対湿度が高い)、P2は未飽和で乾燥しているとします。また、こ

の気層は条件付不安定です。

 P1の温度は初めは乾燥断熱減率で下がりますが、持ち上げ凝結高度からは湿潤断熱減率で下がり、

温度降下は緩やかになります(凝結熱の放出)。一方、P2は乾燥しているため乾燥断熱減率で温度が

下がり続けます。そのためにP2の温度降下はP1に比べて大きく、図のP'1〜P'2のように気層の

状態曲線は変化し、不安定になります。このことを対流不安定といいます。

 

 

図3.32 対流不安定

 

下層が高温・多湿で上層が低温・乾燥になっているほど対流不安定です。逆に気層の上部が混合

比が大きく、下部が乾燥しているときを考えてください。対流安定になるはずです。

日本の梅雨から夏は、下層の空気は湿潤で対流不安定になる状態になっていますから、低気圧・

前線や地形による上昇流で気層が持ち上げられると、不安定が顕在化して激しい対流性の降雨となります。

 対流不安定と湿球(相当)温位との関係

刄ニ/凾y<0 のとき、 対流不安定

   刄ニ/凾y=0 のとき、対流中立               (3.51)

刄ニ/凾y>0 のとき、対流安定

になります。湿球温位、相当温位の定義を思い出し、図3.32で確かめてください。

[注意]

 静力学的不安定でも、対流不安定でも、空気を持ち上げる上昇流がなければ積乱雲が出来ること

はなく、不安定な状態になっているだけです。

 また、安定であっても気塊・気層が持ち上げられれば凝結し、雲はできますし雨も降ります。こ

の時は、積乱雲は出来ないでしょうが。