4 持ち上げ凝結高度と自由対流高度
条件付不安定の状態の大気中を未飽和の湿潤空気塊が断熱変化(飽和した場合は偽断熱変化)的に上
昇する場合を考えます。このときの大気の鉛直温度分布は図3.30の状態曲線で表わすように、乾燥断熱
線と湿潤断熱線との間にあります。気圧P1にある空気塊(温度Ts、露点Td)を持ち上げていきます。
このとき、状態曲線つまり周りの大気の鉛直温度分布は変化しません。このときの状態は条件付不安定
で未飽和空気ですから、安定であり空気塊が浮力で上昇することはありません。何らかの力で(例えば
孤立した山による強制上昇)で持ち上げられたらどうなるかの議論です。
図3.30 持ち上げ凝結高度と自由対流高度
空気塊は未飽和ですからその温度変化は乾燥断熱線で決まります。空気塊の混合比は露点Tdを通る
(飽和)等混合比でわかります。温度Tsを通る混合比はそのときの飽和混合比です。上昇するにつれて
空気塊は断熱膨張し、温度は下がって行きますが混合比は凝結が起きるまでは一定です。何故でしょう、
混合比の定義を思い出して下さい。空気塊に含まれる水蒸気と乾燥空気の質量の比でしたね。体積や温
度が変わっても質量は変わりません。空気塊の温度は乾燥断熱線に沿って下がっていき、やがて初めの
露点温度を通る等混合比線と交わります。このときの空気塊の温度を通る混合比線の値が空気塊の飽和
混合比であり、これが空気塊の混合比と同じになったのですから空気塊は飽和したことになります。こ
のときの高度(図のP2)を持ち上げ凝結高度LCL(lifting
condensation level)といいます。
ここまでは空気塊の温度は周りの温度よりも低く、安定です。さらにこの飽和した空気塊を持ち上げ
ると、温度は湿潤断熱線に沿って下がり、やがて状態曲線と交わり周囲の温度と等しくなります。この
高度を自由対流高度LFC(level of free
convection)といいます。この高度までは空気塊の温度は
周囲よりも低く、安定です。LFCよりもさらに空気塊を持ち上げると、空気塊の水蒸気がなくなるま
では湿潤断熱減率で温度は変化するので、空気塊の温度は周りよりも高くなり正の浮力を得て自力で上
昇します。つまり不安定です。
図3.30で気圧高度P1を地表とします。LFCを通る乾燥断熱線に沿って得られる地表の温度はTc
です。大気の状態曲線は変化せずに地表の温度がTcまで上昇すると、少しだけ地表の空気塊が上昇でき
れば後は浮力だけでLFCへ上昇できることになります。夏の蒸し暑い日に夕立や雷を考えるときは最
高気温が気になります。
強い日射がある時に地表面付近の大気層では、空気がよく混ざり合った混合層が発達します。混合層
内では気温減率は乾燥断熱減率に近く、温位と混合比は一定になっています。このような場合、地表の空
気を上昇させて得られる持ち上げ凝結高度と実際に出来ている対流雲底とはよく一致します。地表の温
度、混合比は変化が大きいので、そのまま用いるよりもある程度の層の平均を使った方が良いわけです。
地表の温度Tと露点温度Tdを使ってLCL、雲底高度を見積もる方法に
次のヘニングの公式があります。
LCL(m)≒125(T−Td) (3.49)
5 潜在不安定(対流有効位置エネルギー)
大気の鉛直温度分布が図3.31の状態曲線で表わされています。空気塊はLFCまでは強制上昇(気流
の水平収束、山の斜面、地表面加熱による乱流)させられると、その後は浮力で上昇し、上層の安定層
で浮力は0になります。この浮力が0になる高さをLNB(level of
neutral buoyancy)といいます。
このとき、強制上昇に必要なエネルギー(対流抑制エネルギー)と浮力で自力上昇するエネルギー(対
流有効位置エネルギー)を比べて、後者が大きいときを潜在不安定といいます。LFCまで持ち上げて
やれば、後は自分でガンガン上昇するノリ易いタイプですね。
エネルギーは次のように求めます。ある気圧高度で周囲の大気の温度をT、空気塊の温度をT’とし、
気圧面高度にごく薄い層凾oを考えます。この層のエネルギーは
−R(T−T’)凵ilnP)
と表わされます。これをLFCからLNBまで加えたものが対流有効位置エネルギーCAPEになりま
す。
図3.31の状態曲線と湿潤断熱線に囲まれた+域です。CAPEが−になるところで空気塊を持ち上げ
るには、外からのエネルギーが必要です。負のCAPEが対流抑制エネルギーCINEで,図3.31の空
気塊が上昇するところから自由対流高度LFCまでの−域が対応しています。CINEが小さいほど対流
雲が発生し易くなります。
図3.31 潜在不安定
次に、この場合の空気塊の運動を考え、CAPEがすべて空気塊の運動エネルギーに変わるときのL
NBでの空気塊の鉛直速度wを求めましょう。鉛直方向の気圧傾度力、降水粒子の重さ、周りの空気の混
合はないと仮定します。また、自由対流高度で鉛直方向の速度を0とします。
LFCを超えたところでは空気塊は浮力を受けます。ニュートンの第2法則F=Mαから空気塊は浮
力を受けて加速度を持ち、速度が増します。Fは浮力です。空気塊がさらに上層へ行くと浮力を受け、ま
た速度が増します。この状態がLNBまで続きます。
したがって、LNBで最大の速度になります。空気塊の運動エネルギーは、今は鉛直方向だけを考えて
いますから
(1/2)Mw2
です。CAPEのすべてが空気塊へ与えられたときの(LNBにおける)運動エネルギーは
(1/2)Mw2=CAPE
になります。単位質量の空気塊を考えるとM=1なので、鉛直方向の速度wは
w=(2×CAPE)1/2
になります。
[問題] 図3.31でLFCが850hPa、LNBが200hPaであった。また、850hPaから200hPa
の平均の大気と空気塊の温度差(T−T’)が3.0Kだった。
@このときのCAPEを求めなさい。ln0.24=−1.452
ALNBで考えられる上昇流を求めなさい。
答え @ 1250Jkg−1(=m2s−2)
CAPE=−R×(T−T')×凵ilnP)
=−287Jkg−1K−1×3.0K×(ln200−ln850)
≒1250J/kg
A 50m/s
w=(2×CAPE)1/2
=(2×1250m2/s2)1/2
=50m/s