3.4.4力学的安定度

 大気中を空気塊が上昇(下降)する場合、そのまま上昇(下降)して元の高度から離れるときに大気

は不安定といいます。逆に、元の高度に戻るときを安定、上昇(下降)が止まってしまうときを中立と

いいます。

 基本の考えは3.4.2で学んだ浮力で、静力学平衡にある静止した大気中での空気塊の鉛直運動です。

大気の鉛直温度分布がわかっていれば、空気塊の温度と周りの大気の温度との差から浮力がわかります。

空気塊の温度変化は乾燥空気(未飽和の湿潤空気を含む)と飽和空気では違いますから、安定度も分け

て考えます。大気中での空気塊の鉛直運動は近似的に断熱変化と考えてよく、大気の温度分布(状態曲

線)は変化しないとします。

1 乾燥大気の安定度

 周りの大気の気温減率をγ=−凾s/凾yと表わしますが、図3.26の左下のように大気中の温度分布

は一様ではありません。安定度は気温減率が異なる層毎に考えます。

乾燥断熱減率はΓ=g/Cp=9.8℃/kmです。

乾燥空気の安定度

      γ>Γ のとき、不安定

      γ=Γ のとき、中立                   (3.46)

      γ<Γ のとき、安定

の関係から決まります。

 大気層の気温減率が図3.26のγ1のように乾燥断熱減率よりも大きいときに、空気の一部が上昇(下

降)したとします。ここでは空気塊は未飽和の場合を考えていますから温度変化は乾燥断熱変化をし、

温度の変化はエマグラム上では初めの気圧と温度の点を通る乾燥断熱線に沿って変化します。

 

    図3.26 乾燥空気の安定・不安定

 

 

図からわかるように上昇するときは周りの空気よりも温度が高く、上昇を続けます。この大気層は不

安定というわけです。大気層の気温減率が図3.26のγ2のときは、空気塊の温度は周りよりも低いので

空気塊は元に戻り、大気層は安定です。大気層の気温減率が乾燥断熱減率と同じであれば空気塊の温度

と周りの大気の温度が等しくなり、空気塊はそこで静止します。このときは中立といいます。

 次に静力学的安定度を温位から見てみます。今、850hPaと700hPaで温位が等しく300Kとします。エ

マグラムから温度はそれぞれ13.1℃、−2.0℃です。850hPaの空気塊を乾燥断熱線に沿って上昇させる

700hPa では−2.0℃で700hPaの温度と同じです。したがって、この間の成層は中立です。乾燥空気の

温位は保存されますから、高度が異なる同じ温位の空気は同じ高度では同じ温度になる!あたりまえと

言えばあたりまえの話です。

 温位からみた乾燥空気の静力学的安定をまとめると図3.26右上のように、

  刄ニ/凾y>0(上層に向かって温位増加)のとき   安定

  刄ニ/凾y=0(等温位層)       のとき   中立

  刄ニ/凾y<0(上層に向かって温位減少)のとき   不安定

 となります。

 

3.27を見てください。平均的に大気の温位の鉛直分布は上層ほど温位が高くなっています。

 

     図3.27 西経80度に沿う温位の南北鉛直断面図

          (Dutton.J.A,1976 から作図)

 

 

 乾燥断熱変化のときは大気は安定な成層になっています。対流圏界面では等温位線が混み、強い安定

を示しています。積乱雲が発達してきても、この安定層にさえぎられて上昇運動はここまでで、水平方

向に流れてかなとこ雲ができます。