3.4.3 乾燥断熱減率と湿潤断熱減率
大気中では空気が上昇、下降して、いろいろな気象が起こっています。空気の上昇・下降は前節の浮
力だけではなく、その他の原因で生じています。ここでは、空気の上昇・下降する空気塊の温度の変化を
説明します。
高度に対する気温の下がる割合(−凾s/凾y)を気温減率(Γ:ガンマ)といいます。気温減率は
乾燥空気(湿潤空気が凝結を伴わないときを含む)と飽和空気では異なります。
1 乾燥断熱減率Γd
乾燥空気の断熱変化を考えます。熱力学第1法則の式で断熱変化ですから外部からの加熱・冷却は0で
す。
0=Cp凾s−α凾o
静力学平衡の式 凾o=−ρg凾y=−(1/α)g凾y を代入すると
0=Cp凾s+g凾y
(3.44)
このΓdを乾燥断熱減率といいます。gとCpの値をいれて計算してみてください。
Γd=0.00976Km−1=9.76K/km=9.76℃/km
乾燥空気が断熱的に上昇すると、膨脹によって内部エネルギーを使い、温度が下がります。その下が
り方は、1km上昇する毎に約9.8℃下がります。逆に、下降するときは1km上昇する毎に約9.8℃温
度は上昇します。エマグラムの乾燥断熱線(等温位線)を利用することによって、高度(気圧高度)変
化と温度変化がわかります。乾燥断熱減率は気圧、温度には無関係で、一定の値です。
2 湿潤断熱減率
飽和空気が断熱的に上昇するする場合を考えます。飽和空気塊が上昇していくと温度が下がり、飽和
水蒸気密度も小さくなるので(表3.3)、余分な水蒸気が凝結します。このときに放出される凝結熱が空
気塊を暖めるので、温度の下がり方は乾燥空気の場合よりも小さくなります。このときの気温減率を湿
潤断熱減率(飽和断熱減率)Γsといい、表3.5に示すように気圧と気温に依存します。湿潤断熱減率の
湿潤は飽和の意味で、湿潤空気(乾燥空気+水蒸気)の意味ではありません。湿潤空気が未飽和のとき
は乾燥断熱減率、飽和したときは湿潤断熱減率に従います。
表3.5 湿潤断熱減率(℃/100m)
湿潤断熱減率Γsは次式で定義されます。
(3.45)
Lvは凝結の潜熱、wsは飽和混合比、ε=0.622です。それぞれについて?でしたら、前に戻って復習
を。
湿潤断熱減率の式を見ると、乾燥断熱減率にはない水蒸気と凝結熱の効果が入っています。その分、
温度変化は緩やかになります。また、その値は空気塊のはじめの気圧、温度によって違います。難しく
いうと、湿潤断熱減率は気圧と温度の関数である。
ws→0のとき(空気塊の水分がなくなったとき)、Γs→Γdです。
湿潤断熱減率の導出は省略しますが、偽断熱過程を表わす(3.37)式から、状態方程式、静力学平衡の
式、クラジウス-クラペイロンの式を使って導かれます。エマグラムのカーブした線が湿潤断熱線で、気
圧と気温(=露点温度)の関係、飽和混合比が求められます。