3.4.2 浮 力
静力学平衡では、鉛直方向の正味の力が釣り合っているときを考えましたが、ここでは空気塊に正味
の力(浮力)が働く場合を考えます。P56の(3.39)式を書き換えると、
(1/ρ)凾o/凾y+g=0(=加速度)
となり、単位質量の空気塊の鉛直方向の正味の力が0のときの運動方程式です。今度は正味の力は0で
はないので鉛直方向の加速度も0ではありません。図3.25のように静力学平衡の大気中に温度T、体積
V、密度ρの空気塊を考え、重力加速度をgとします。
図3.25 浮力
質量Mの空気塊の運動方程式は鉛直方向の加速度をαzとすると、
Mαz=−M(1/ρ)凾o/凾y−Mg
M=ρV
ρVαz=−V凾o/凾y−ρVg (3.42)
となります。右辺第1項は鉛直方向の気圧傾度力、第2項は重力です。
考えている空気塊と同体積の周囲の空気(図の右側)は静力学平衡ですから、これに働く気圧傾度力
と重力は釣り合っています。周囲の空気塊の運動方程式は
0=−V凾o/凾y−ρ'Vg
となります。この式の気圧傾度力を(3.42)式へ代入し、これをρV(=M)で割ると単位質量につい
ての運動方程式(3.43)が得られます。
ρVαz=ρ'Vg−ρVg
αz=(1/ρV)(ρ'Vg−ρVg)
=(g/ρ)(ρ'−ρ)
=(g/T')(T−T') (3.43)
上式の密度差(ρ'−ρ)から温度差(T−T')へ式を変換するときに、簡単にするために乾燥空気の
状態方程式を使っていますが、湿潤空気の場合は仮温度を使います。
(3.43)式の導き方。
空気塊と周囲の空気の状態方程式は
P=ρRT、P=ρ'RT' ですから、これからρ、ρ'を求めて代入します。
(g/ρ)(ρ'−ρ)=(gRT/P)[(P/RT')−(P/RT)]
=gT(1/T'−1/T)=gT[(T−T')/TT']
=(g/T')(T−T')
(3.43)式から次のことがわかります。
空気塊と周囲の空気との温度差または密度差から加速度αzが決まります。鉛直方向は上向きが+です
から加速度+は上昇、−は下降になります。
(T−T')>0または(ρ'−ρ)>0のとき、上昇:正の加速度
(T−T')=0または(ρ'−ρ)=0のとき、静止:加速度=0
(T−T')<0または(ρ'−ρ)<0のとき、下降:負の加速度
暖かい(軽い)空気塊は冷たい(重い)空気中を上昇し、冷たい(重い)空気塊は暖かい(軽い)空気
中を下降します。暖かい(軽い)と冷たい(重い)ことは、空気塊と周りの空気の相対的なものです。
以上が浮力の説明です。
[問題] 温度25℃の大気中に温度20℃の空気塊があるとき、空気塊に働く加速度を求めなさい。重力
加速度は9.8m/s2、絶対0度は273度とします。
答え −0.16m/s2
(3.43)式へ数値を入れて、計算してください。加速度は−の符号ですから、下向きです。