3.4 大気の鉛直方向の熱力学的性質

 これまでに見てきたように、空気が断熱的に上昇することによって水蒸気が凝結して雲が出来ます。
この章では大気の鉛直方向の動きと性質を説明します。

本節の重要事項

 ・静力学(静水圧)平衡  凾o/凾y=−ρg

 ・浮力

 ・乾燥断熱減率Γと湿潤断熱減率Γ

 ・安定度、対流不安定

 ・持ち上げ凝結高度、自由対流高度、潜在不安定

 ・対流不安定

3.4.1 静力学(静水圧)平衡

 ここでは大気中の空気塊の鉛直方向の運動を考えます。空気塊に働く鉛直方向の力は、下向きの重力

と上向きの気圧傾度力の2つと考え、2つの力が釣り合っている(正味の力は0)ときを静力学平衡と

いいます。

地球上のすべての物体には重力が作用しています。重力は地球の万有引力と自転の遠心力の合力です。

大気は重力により地球に引きつけられているため下層の大気はその上の大気の重さを受け、下ほど圧縮

され密度が大きく気圧も高くなります。ある高度の気圧はそこから大気上端までの空気の重力といえま

す。

 図3.23のように大気中に表面積凾r、高さ凾yの空気塊を考え、密度はρとします。

 

図3.23 静力学平衡の説明

 

空気塊に働く重力は(空気塊の質量:M)×(重力加速度g=9.8ms−2)で、下向きに働きます。

       重力=Mg=(ρV)g=ρ・凾r・凾y・g :質量=密度×体積

 次に気圧による鉛直方向の力(気圧傾度力)を考えます。高さZの気圧をP、高さZ+凾yで気圧が

P+凾oとします。気圧は大気下層の方が上層より大きく、気圧Pは単位面積当たりで表わされていま

す。

空気塊の下面にはP凾rが上向きに、上面には(P+凾o)凾rが下向きに働きます。

静力学平衡を考えていますから、重力と上・下面の気圧による力の合計は0になります。力の働く方向は

上向きが+、下向きが−です。そうすると、         

 

   −(P+凾o)凾r+P凾r−(ρ・凾r・凾y・g)=0

       −凾o−ρ・凾y・g=0

              (3.39)

  気圧傾度力=重力

となり、これを静力学平衡の式と言います。ここで、単位を見てみましょう。気圧Pの単位はPa(パ

スカル)=N・m−2=k・m−1・s−2です。密度ρはk・m−3、重力加速度はm・s−2、高度Zは

mですから、ρg凾yの単位は[k・m−3][m・s−2][m]=k・m−1・s−2となり、(3.39)式

の左辺と右辺の単位は一致します。

静力学平衡の式を使って、次の問題を解いてください。物理的な計算をするときは、気圧PはPaを使

います。1hPa=100Paです。。また、温度の単位はKです。

 

 

[問題] 密度ρ=1.2k/m(1000hPa、10℃)とする。

@高度差Zが10mのときの気圧差を求めなさい。

A気圧差Pが−1hPaのときの高度差を求めなさい。

密度ρ=0.7k/m(500hPa、−20℃)とする。

B高度差Zが10mのときの気圧差を求めなさい。

C気圧差Pが−1hPaのときの高度差を求めなさい。

答え @1.2hPa  A8.3m  B0.7hPa  C14.7m 

 

[問題] 地表の気圧が1000hPa、空気の密度を0.98kg/mとして、気圧が850hPaになる高度を求めなさ

い。

     答え 1560m

    

 

 運動方程式から静力学平衡の式を導き出して見ましょう。

その前に復習です。3.1節でニュートンの第2法則、運動方程式を学びました。力=質量×加速度でした

ね。単位質量(質量=1)の空気塊の鉛直方向の運動方程式を考えます。

 空気塊に働く力は、@鉛直方向の気圧傾度力=−(1/ρ)(凾o/凾y)、A鉛直方向のコリオリ力

=2ΩCosφ・U、B重力=−gの3つの力で、その合力が、空気塊の鉛直方向の加速度に等しいわけで

す。

鉛直方向の加速度=鉛直方向の気圧傾度力+鉛直方向のコリオリ力+重力

ここで、それぞれの大きさを比べてみます。

 空気塊の鉛直方向の加速度:大気中では積乱雲が発達し、そこでは強い上昇流があり加速度も大きい

ですが、大気全体から見ればごく局所的なものです。広い領域と長い時間から見た平均状態、大規模な

運動では、鉛直方向の加速度は重力加速度に比べると非常に小さく、近似的に0と考えられます。

 コリオリ力:重力に比べると3桁以下の大きさで、無視できます。

したがって、運動方程式は

    0=気圧傾度力+重力=−(1/ρ)(凾o/凾y)−g

 ∴  凾o=−ρg凾y