3・3.4 飽和空気

 空気塊が動く場合、実際の大気中では厳密には周囲の空気との混合もあり、非断熱です。しかし、近

似的には断熱変化と見なせます。飽和した空気を考えるときは、飽和断熱過程と偽断熱過程があります。

 

 飽和した空気が断熱的に上昇すると膨脹し(仕事をする)、気温が下がり水蒸気の一部が凝結し水滴が

できます。水蒸気が凝結する時に凝結熱を空気塊へ放出します。断熱変化を考えていますから、この熱

は空気塊を暖めるのに使われ、温度の下がり方は乾燥空気と比べると小さくなります。逆に、飽和空気

が下降する場合は断熱圧縮で温度が上がり水滴が蒸発します。この時には空気塊から蒸発熱を奪います

から、温度の下がり方は乾燥空気よりも大きいです。図3.21の乾燥断熱線と湿潤断熱線の傾きからわか

ります。

 

 凝結した水が空気塊の中に留まる場合は、上昇する時の過程と下降する場合の過程が全く逆になり

逆過程です。これを飽和断熱過程または湿潤断熱過程といいます。気圧Pで温度Tの空気の温度はLC

Lまでは乾燥断熱線に沿って変化し、それ以後は湿潤断熱線に沿います。あるところから下降するとL

CLまでは湿潤断熱線に沿い、それからは乾燥断熱線に沿って変化し、気圧Pまで戻ると温度は初めの

Tになります。図3.22で空気塊がAからDまで上昇し、そこからAまで下降する時は、A−B−D−B

−Aと変化します。 

次に偽断熱過程というものを考えましょう。飽和空気が断熱上昇する時に生じた凝結水がすべて空気

塊から落下するとした過程です。空気塊の水分の総量が変化しますから飽和(湿潤)断熱過程と違い

可逆過程です。湿潤空気が図3.22でA−B−Dと上昇したとします。この時、B−Dで凝結した水滴は

すべて空気塊の外へ落下し、空気には凝結水滴はない状態です。空気塊がDから下降するときは水滴が

無いので蒸発熱は必要なく、乾燥断熱変化で下降します。

 

 

 

 

 

 

 

 


図3.22 偽断熱変化

 

もしもDにおいて凝結水滴の一部が落下せずに残っていたら、下降過程はD−C−Fとなります。飽

和(湿潤)断熱過程と比べると、落下した水滴の分だけ蒸発熱は少なくて済み、飽和状態から早く抜け出

します。    

偽断熱過程で(P、T)の状態から(P+凾o、T+凾s)へ変わったときに、熱力学第1法則から

近似的に

                (3.37)

と表わせます(式の導き方は省略します。意味を理解してください。)。右辺第1項は乾燥空気の断熱変

化、第2項は凝結による加熱です。飽和空気塊が上昇する時には、凝結熱の分だけ乾燥空気に比べて気

温の下がり方(凾s)は小さくなります。

 乾燥空気の断熱変化では温位が保存されますが、飽和空気の偽断熱変化では湿球温位と相当温位とい

うものが保存されます。

(1)湿球温位

湿潤空気が断熱的に上昇していくと飽和します。持ち上げ凝結高度LCL(気圧P、温度T)を通

る偽断熱線(湿潤断熱線)と1000hPaの等圧線との交点の温度(K)を湿球温位といいます。

湿球温位θ(図3.21)は、偽断熱変化で保存されます(変化しない)。エマグラムの湿潤断熱線は、

ある湿球温位のときの温度と気圧の関係を示す偽断熱線です。

(2)相当温位

 湿潤空気を持ち上げ凝結高度(P、T)まで乾燥断熱的に持ち上げ、その後は偽断熱的に気圧P=0

まで持ち上げるとします。この過程で水蒸気はすべて凝結し、空気塊から落下してしまいます。放出さ

れた潜熱(凝結熱)は空気塊の乾燥空気の温度だけを変化させるのに使われるとします。(3.37)式を微

分の形で表わし積分すると(式は省略)、次式が得られます。wは持ち上げ凝結高度における飽和混合

比で、凝結前の空気塊の混合比wです。Tとθは持ち上げ凝結高度における温度と温位です。

     θ=θexp[L/(C)]              (3.38)

このθを相当温位といい、偽断熱変化で保存されます。expAはeの意味でe=2.718・・・です。e

は一定の割合で増加・減少するものを表わすのに便利な数と理解してください。等温位面解析(図3.16、

P43)と同じように、飽和空気は等相当温位面上を動きます

 (3.38)式で、w→0のとき(exp0=1)はθ→θになります。つまり、相当温位は、持ち上げ凝

結高度からP=0まで持ち上げ、水蒸気をすべて失った空気の温位(乾燥断熱的に1000hPaまで下降した

時の温度)になります。

 空気塊を持ち上げ凝結高度から湿潤断熱的に上昇させると凝結が起こります。この時の単位体積あた

りの凝結水の質量を断熱的雲水量といいます。凝結水が空気塊の中に留まるときは、空気塊の水蒸気と

雲水を合計した混合比は保存されます。したがって、雲水の混合比の増加刄ネは水蒸気の飽和混合比の

減少分−凾に等しくなります。

刄ネ=−凾

この式を持ち上げ凝結高度Zからある高度Zまで加えていくと、高度Zにおける雲水の混合比は

     κ(Z)=w(Z)−w(Z)

で与えられ、雲水量LWC(liquid water content)は高度Zの乾燥空気の密度をρとすれば

     LWC=ρκ(Z)=ρ[w(Z)−w(Z)]

となります。

 

[問題] 水蒸気混合比9gKg−1の空気塊が冷却・凝結し、水蒸気混合比が6gKg−1になった。こ

のときの雲水量を求めなさい。乾燥空気の密度は1Kgm−3とします。

    答え 3gm−3

      雲水量LWC=1Kgm−3×(9gKg−1−6gKg−1