3.3 水蒸気の熱力学
3.2で乾燥空気について見てきました。この章では水蒸気について述べます。水は相変化します(3.1
節)が、それに伴う潜熱は大気を加熱・冷却します。これ以後、湿潤空気という場合は乾燥空気と水蒸
気からなるという意味です。飽和空気とは違います。
本章の重要事項
・水蒸気の状態方程式 e=ρvRvT
・飽和水蒸気圧
・水蒸気混合比
・偽断熱変化で相当温位θeが保存 θe=θexp(LWs/(CpTs))
3.3.1 水蒸気の状態方程式
大気中の水蒸気は、乾燥空気と同じように理想気体の状態方程式にいい近似で従います。
水蒸気圧力e、水蒸気密度ρv、温度Tにおいて、水蒸気の状態方程式は
e=ρvRvT (3.28)
Rv=461.51Jkg−1K−1
Rv=R*/mv
R*=8.3143×103JK−1kmol−1:一般気体定数
mv=18.015:水の分子量
となります。
これまで、乾燥空気圧Pd、水蒸気圧eとして乾燥空気と水蒸気について別々に取り扱ってきました。
では、大気の圧力Pとの関係はどうなんでしょう。ダルトンの法則によると、混合気体の圧力P(今は
大気の圧力)は、混合気体を形成する各気体の圧力(分圧と言う)の和に等しくなります。
気体の種類をPiとすると、
P=P1+P2+・・・+Pi=狽oi
と表わせます。各気体は同じ温度で同じ容積を占めているのが条件です。例えば、窒素と酸素の混合気
体で窒素の分圧が0.8気圧、酸素の分圧が0.2気圧とすれば、この混合気体の圧力は1気圧です。
乾燥空気圧は大気の水蒸気を除く混合気体の圧力として、水蒸気圧は水蒸気だけの圧力を考えるわけ
です。
3.3.2 飽和水蒸気圧
前に簡単な相変化を説明しましたが、水の相変化について詳しく述べます。
大気中では水は固相(氷)、液相(液体の水)、気相(水蒸気)の各相で存在し、それらの間の相変化がい
ろいろな気象現象に関係しています。
固体の氷の中で水分子は互いに格子状に並んで結合されていますが、少しは振動しています(図3.1
を参照)。冷たい氷を加熱していくと温度の上昇に伴って分子の振動が次第に大きくなり、最後には固
体でいるために必要な分子間の結合が切り離され、分子はかなり自由に動き回れるようになり、液体の
水になっていきます。加熱を続けても融解が始まると加えられたエネルギーは固体の格子間の結合を切
り離すために消費され、氷が全部融けて液体の水になるまで温度の上昇は止まり0℃( =
273.15K )に保
たれています。
液体になっても水分子の大部分はまだ液体の外に飛び出せるほどのエネルギーは持っていません。こ
の状態で加熱を続けると水分子の運動は次第に活発になり、その中で特に大きなエネルギーを持った分
子は液体の他の分子との結合を振り切り、液体から外に飛び出して行きます。これが蒸発で液体の水が
気体の水蒸気になります。
このように水が固体→液体→気体と相変化するときには熱を加えてやる必要があります。反対に気体
→液体→固体の相変化では熱が放出されます。相変化に伴い吸収あるいは放出される熱を潜熱といい、
蒸発の潜熱、凝結の潜熱(あるいは単に蒸発熱、凝結熱)などと呼ばれています。
また、液体から気体になるときに必要な蒸発の潜熱は、気体から液体になるときの凝結の潜熱に等し
く、固体・液体間でも融解の潜熱と凝固の潜熱は等しくなっています。
固体の氷の表面から水分子が直接飛び出したり、あるいは水蒸気分子が直接氷の表面にぶつかり固体
の中に取り込まれることもありそれを昇華といいます。その場合はより多くの潜熱の出入りがあり、氷
の表面から昇華して水蒸気になるために必要な潜熱は融解の潜熱と蒸発の潜熱の和に等しい値になりま
す。
蒸発の潜熱=凝結の潜熱=2.50 ×106Jkg−1
融解の潜熱=凝固の潜熱=0.334×106Jkg−1
昇華の潜熱=2.83 ×106Jkg−1