3.2.7 大気の温位分布

 実際の大気の温位分布はどうなっているのでしょう。

3.13は平均の温度分布と大気の区分名です。対流圏では上層ほど温度は低くなっています。もう少

し詳しく見てみましょう。図3.14は西経80度(80゜W)に沿った1月の平均温度と風速の南北鉛直断

面図です。対流圏中層〜下層は平均的には高緯度が温度が低く低緯度が高くなっています。熱帯地方の

下層が最も気温が高いです。上層(圏界面)付近では高緯度で気温が高く、低緯度で低くなっていて、 

熱帯の上層が気温が一番低いです。40゜N付近の中緯度で等温線が立っていて、等温度線が密集して

南北の温度傾度が大きいことを示しています。つまり、傾圧性が大きく、そこでは風速も大きくなって

います。

温度傾度が大きいところで風が強いことは温度風の関係から説明できますが、この辺は大気の力学の

分野に入るので、これ以上は述べません。

 

 

 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


図3.13 大気の平均鉛直分布

 

 

 

図3.14 北半球南北鉛直断面図:西経80度に沿う1月の平均気温と風速。破線は等温線

(℃)、実線は等風速線(東西成分:m/s)、一点破線は対流圏界面。

      (Kochanski,1955:小倉義光「一般気象学」から)

     図3.15 北半球南北鉛直断面図:西経80度に沿う1月の平均温位。一点破線は対流圏界

面。(Dutton.J.A,1976:小倉義光「一般気象学」から作図)  

 

 

 図3.15は図3.14と同じ80゜Wに沿う1月の平均温位の南北鉛直断面図です。温位の南北方向の分

布は高緯度で低く、低緯度で高くなっています。温位の最も低いのは極地方の下層です。しかし、鉛直

方向を見るとどの緯度でも下層で温位は低く、上層で高くなり、気温とは逆の分布です。

 対流圏界面付近から成層圏にかけては、高度に対する温位の増加する割合が急激に大きくなっていま

す。下層の空気が上昇してきても回りの温度が非常に高く、ここの層で上昇が止まってしまうことにな

ります。対流圏界面付近は非常に安定な成層になっています。熱帯地方で対流圏界面の高度が高いのは、

強い対流によるものです。気温と同じように、南北方向の分布は中緯度で等温位線が密集し、傾度が大

きく、東西方向の風速が大きいところ(図3.14)に一致しています。

 話は変わりますが、気象では地上天気図を除いて上層は等圧面天気図を使います。空気は鉛直方向に

動いています(上昇・下降)。しかし、温帯低気圧のスケールのじょう乱では、上昇(下降)流は水平方

向の風速に比べると極めて小さく、風は等圧面上を吹いていると近似しています。

 空気が乾燥断熱変化をしていると仮定すれば、温位は保存されます。そこで、等温位面の天気図を作

れば、空気はその面を動くと考えていいわけです。図3.16は温位305Kの等温位面天気図で、等高度

線と風が記入されています。地上寒冷前線の北西側(図の左上部分)では高度が高い所から低い方へ、

高度線を横切って風が吹いています。空気塊が温位305Kの等温位面を下降していることを示してい

ます。図の下、中央部分では高度が低い方から高いほうへ等高度線を横切り風が吹き、上昇流があるこ

とがわかります。また、下降流のところで北西から南東へ鉛直断面(紙面に直角)を考えると、等温位

線はBからAへ斜めにあがっていることになります(図の右を参照)。 この例に限らず、等圧面天気図、

鉛直断面図で立体的(3次元的)なイメージを考えることは大事です。

 

 図3.16 等温位面高度分布(温位305K)

       破線は地上の寒冷前線

      (Y.Ogura & D.Portis,1982:小倉義光「一般気象学」から作図)