3.2.5 乾燥空気の断熱過程 

大気の状態は熱力学第1法則にしたがって変化し、気象で考える空気塊の運動は近似的に断熱変化を

すると考えていいことが多いです。

断熱変化とは、空気塊を考える時に

  周囲の空気との混合はない。周囲から加熱・冷却を受けない。

ことをいいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

図3.10 上昇・下降と温度

 

ここで、空気塊の上昇、下降について考えます(詳しくは4章)。地表付近にあった空気塊がある高度

まで昇して来たとします。空気塊の温度が回りの空気の温度よりも高ければ、空気塊は上昇し、周りの

空気の温度よりも低ければ下降します。同じ温度であれば静止します。地表付近にあった空気塊が上昇

する場合を考えると、普通は上層の温度は下層よりも低いです。     

では、温度が高い地表の空気が上層に行くと、周りよりも気温が高いので上昇を続けるかというと、

そういう訳には行かないのです。

空気塊は上昇すると膨脹し、温度が下がります。今は乾燥空気塊が断熱変化、周囲との熱のやり取り

はない変化をしているとします。そうすると、熱力学第1法則の(3.23)式で凾p=0です。

凾p=凾t+凾v=C凾s+P刄ソ=0

空気塊が上昇して状態が変わっても、上式は成り立っています。空気塊が上昇すると、周りの気圧が低

いので膨脹の仕事(P刄ソ)をします。周りの空気が引っ張って膨れるのではなく、自分自身で膨脹す

るのです。この仕事をした分の内部エネルギーC凾sが減り、温度が下がります。逆に下降するときは

温度は上がります。

 つまり、高度が違う空気の温度を直接比較してもなんとも言えず、断熱膨張、気温が下降しながら上

昇した空気塊の温度と周りの空気の温度を比較しなければなりません。いろいろな高度の空気の温度を

基準になるもので比較できれば便利です。

ある状態(圧力P、温度T)から(圧力P、温度T)に変わったとき、圧力と温度は次のポアソン

の式で表されます。

 :R/C=(C−C)/C=0.286        (3.26)

ポアソンの式と温位の導き方

熱力第1法則で断熱変化凾p=0を考えます。

Cp・dT−α・dP=0

状態方程式

α=RTからα求め上式に代入、整理すると、

Cp・dT=R・T・dP/P

dT/T=(R/Cp)dP/P

となり、これを積分すれば(気象を少し詳しくやろうとすると、微積分の知識が必要になります)、

nT=(R/C)lnP+C(定数)

nT=lnP(R/Cp)+C

n(T/P(R/Cp))=C

(T/P(R/Cp))=C : ポアソンの式

  が求まります。状態(P、T)の時と(P、T)の時を考え、

=1000hPaのときにT=θと書き温位と定義する。

(θ/1000(R/Cp))=(T/P(R/Cp)

 書き直すと温位の式(3.27)になります。

 

 ポアソンの式(3.26)で、(P、T)の空気塊が気圧=1000hPaになった時の温度をθとし、温位と定

義します。上述の基準面として1000hPaを考えるわけです。

                  (3.27)

 温位の特徴は次のとおりです。

・ 乾燥空気の断熱変化の条件で成り立つ。周りの空気との熱のやりとりも無いし、空気の混合もない。

     (気圧P、温度T)にある空気を断熱的に1000hPaまで上昇(膨脹)、下降(圧縮)させた時の

温度θ(K)。

・ 温位θは状態変数(P、T)であらわされる。

     温位θは断熱過程において保存される。空気塊が移動すると気圧、温度は変化するが温位θは変化し

ない。

 

問題]冬の寒気団、500hPa、−30℃の空気塊の温位を求めなさい。

    ただし、20.286=1.2194です。

    答え 296.5K :気温はKで計算する。気圧は分母分子にあるのでhPaでよい。

 


乾燥断熱変化における温位の保存  興味がある方はやってみてください

 初めの状態(P、T)から微小な量だけ変化して、(P+凾o、T+凾s)になり、

温位はθ+刄ニになったとします。温位の式