3章 熱力学
地球大気は窒素、酸素、アルゴン、その他のごく微量な気体と水蒸気から成っています。気象では空
気を水蒸気とその他の気体の集合の二つに分け、水蒸気を除くその他の気体の集合を乾燥空気といいま
す。雲や降水の元になるのが水蒸気ですが、始めに乾燥空気について、その後に水蒸気、湿潤空気(乾
燥空気+水蒸気)について議論を進めます。
その前に基礎知識の確認をしましょう。
3.1 基礎知識
3.1.1 熱と温度
日常の生活では「風邪で熱がある。熱を計ったら38度もあった。」とか「加熱・冷却」といった言葉
を何気なく使っています。「熱と温度の違いは?」と改めて聞かれると・・・どう答えますか。これから
は次のように使います。
温度:物体の暖かさ、冷たさを表す量。
熱 :物体を暖かく、冷たくする原因。
熱量:物体を暖め、冷やすのに必要なエネルギー量。
「水を温めてある温度になった。2倍の水を同じ温度まで暖めるには2倍の時間が必要である。した
がって、2倍の水は、その半分の水の2倍の熱の量を持っている。」と考えるといいでしょう。
温度を表わす時に私達は℃を使っていますが、気象の理論ではK(絶対温度)という単位を使います。
Kとt℃の関係は
K=273.15+t(℃)
です。30℃は303.15Kになります。先に進むといろんな言葉(気圧、度・・・)が出てきますが、その
単位はきちんと覚えてください。単位からその意味がわかります。
さらに温度とは何かというと、その物質の分子の運動エネルギーなのです。私たちの周りの物質はそ
れぞれ固体、液体、気体という3つの状態を取ります。それぞれの状態を相といい、ある相から別の
相へ変わることを相変化(相転移)といいます。水分は氷、水、水蒸気の相があり、相によって物質
の分子の状態がそれぞれ違います(図3.1)。
図3.1 相と分子運動
固体では分子同士が引き合い、自由に動くことが出来ません。分子は自分の場所で振動しています。
加熱によって温度が上昇すると振動が次第に大きくなっていきます。
液体では、お互いに引き合う力が少し弱くなります。分子は接触はしていますが分子の間を通り抜け
て移動することができる状態です。
気体では分子の持つ運動エネルギーが大きくなり、更に動きが激しく、他の分子との引き合いを振り
切り、自由に動いている状態になっています。
気体の場合を考えましょう。気体の圧力(Pa:パスカル)は気体分子が動き回り、ぶつかった時に及
ぼす力から生じているものです。温度が高いほど分子の動きは活発で圧力も高いです。このように温度
は分子の運動エネルギーに関係しています。
固体中の分子は移動はしていませんが振動していて、温度が高いほど大きな(激しい)振動をします。
つまり、分子の振動エネルギーや運動エネルギーの大小が温度の高低なのです。また、熱は分子の動き
により発生する運動エネルギーということです。